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【期間限定】おかまの日記念? [その他]

4月4日はオカマの日v

ということで、デビュー前にサイトに掲載していた懐かしいショートをupします。
どのシリーズでもなく、オリジナルの短編です。

皆様に少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


しかし昨日は風が強かったですねー(汗)
朝の通勤時に傘の骨が折れました。気に入ってただけにざんねん~。
明日はお天気だといいな。

というわけで『続きを読む』からご覧ください4月4日オカマの日記念SS『過ぎし日の』(デビュー前に書いたショートです)




 三十年も生きていると、予想外のことに出くわしてもそれほど驚かなくなるものだが、流石に今回は『仰天』という言葉がぴったりなくらいの驚きだった。
「あれ?高橋?」
 夜の新宿、擦れ違いざまに声をかけられ、振り返ったそこには――オカマが立っていた。
「はい?」
 確かに俺は高橋だが、お前は誰だ、と眉を顰めた俺に、オカマは破顔すると、
「やっぱそうだ。俺、俺。三峰。覚えてる?」
 と俺の方へと近づいてきた。
「三峰…って、三峰???」
 ただでさえ人通りが多いところにもってきて、すっかり立ち止まってしまっていた俺たちを邪魔そうにしながら人々が行過ぎてゆく。俺のあげた大声に、更に眉を顰ながら行過ぎる人々に対する配慮をまるまる忘れてしまうくらい、俺はそのとき驚いてしまっていた。
「おお、覚えてたか」
「覚えてたかって、お前…」
 覚えていないわけがない。三峰は高校時代の友人――俺が一方的に「親友」だと思っていたくらいの友人だった。高校卒業後、彼は現役で東京の大学に入学し、俺は予備校生活に入った。最初はちょくちょく連絡をとりあっていたが、いつの頃からかぱたん、と連絡が来なくなった。新生活に楽しいことが多いからだろうな、と半分拗ねながらも次第に俺の方も受験勉強に追い立てられるようになり、一年後、めでたく彼と同じ大学に入学することができた俺は、彼にそれを伝えようと電話をし――『現在使われておりません』という機械の声に愕然としてしまったのだった。
 上京後、学内をくまなく探したが、彼の姿を見つけることは出来なかった。
「半年くらい前に、急にやめちゃったんだよねえ」
 同じ高校から入った友人は、あまり三峰とは交流がなかったらしく、やめた彼が何処で何をしているか、ということまで知らないと言った。彼の実家に電話をしたら、母親は彼が大学を辞めたことすら知らないようだったので、慌てて僕は電話を切った。一体彼は何処に行ってしまったんだろう――それから半年後、彼の母親から、彼の居場所を知らないかと心配そうな声で電話を貰い、僕も僕なりに都内を探し回ってみたが、彼の居所は杳として知れなかった。暫くしてからその母親から、「見つかったから安心してくれ」と連絡が入った。
「何処にいるんです?」といくら聞いても母親は、「それは言えない」と申し訳なさそうに言うばかりで、決して彼の行方を教えてくれようとしなかった。
 それから月日は流れ――今、オカマの彼を目の前にし、俺はようやく母親が『それは言えない』と言った意味を察することができた。
「お前、かわってないなあ」
 そう笑う三峰の笑顔こそ、十年以上前に別れたあの日のままだった――が、外見は恐ろしいほどに変わっている。あの頃、剣道少年だった三峰は、ほとんど刈り上げのような真っ黒の短髪だったのに、今の彼はほとんど金髪、しかも肩でカールでしている髪型になっていた。
 服装だって、白シャツにジーンズ、若しくは学生服の下、という姿しか見たことがなかったが、今の彼の姿はなんと真っ赤なスーツに花柄のオーガンジーのブラウスだ。あの三峰がブラウスを着る日がくるなんて--じゃらじゃらとそれこそ金銀パールプレゼント(古い)とばかりにアクセサリーを身につけた三峰は、ひらひらと化粧を施した顔の前で、指輪だらけの手をふると、
「俺はかわっててびっくりしたろ?」
 と俺の顔を覗き込んできた。
「……かわってるってレベルじゃねーだろ」
「そりゃそうだ」
 ぼそ、と言った俺のことばに、目の前のオカマは身体を揺すって笑い出した。人々がなにごとか、という眼で俺たちを遠巻きにして通り過ぎてゆく。
「お、お茶しねえ?」
 今頃、人目が気になりはじめ、俺は周りを見回し、PRONTの看板をみつけて彼を誘った。
「おお」
 彼はまた昔どおりの笑顔で頷くと、俺と肩を並べて歩き始めた。

「今、なにやってんの?」
 注文したコーヒーがテーブルに届いたあと、俺はまじまじと目の前のオカマを見つめそう尋ねた。
「やとわれママ。これ、店」
 内ポケットから名刺入れを取り出し、綺麗にマニキュアを塗った指で一枚差し出してくれたそこには、
『April あきら』という飾り文字がかかれていた。
「あきら?」
「えへ、名前、借りちゃったよ」
 そう、あきらは俺の名だ。三峰は『浩一郎』という硬い名前だった。
「借りたって、お前なあ」
「いやあ、この世界入ったとき、源氏名どうするかって聞かれてさ、ふと思いついたのがお前の名前だったんだよね」
 そう笑った彼の方から、携帯の着信音が聞こえてきた。
「ちょっとごめん」ポケットからピンクの携帯を取り出した彼は、いきなり小指をたてて電話を握ると、
「あ、やまもっちゃあん?ごめえん、今日、ちょっとお店出るの、遅れるわ。かるぅく飲んでてくれるかなあ?」
 と、今までの口調とはがらりとかわった、いわゆる「おカマ口調」で喋りはじめたものだから、俺は唖然として彼の豹変振りを見つめてしまった。
「うん、うん、やだあ、そんなんじゃあないわよう。ふふ、じゃ、またあとで。え?なになに?んもう~、イケズなんだからぁ」
 イケズって死語だろう――いや、突っ込むべきところは他にあるような気がするが、と俺は三峰が「それじゃあねえ」と明るい声で電話を切り
「で?なんの話だったっけ?」
 とまた、がらりと口調を変えて問い掛けてきたのに、思わず
「どういうことなんだよ??」と大きな声をあげてしまったのだった。

「驚いたよね。ごめんねえ」
 はあ、と大きく溜息をついて、語り始めた三峰の口調は――オカマそのものだった。俺が眉を顰めたのがわかったんだろうか、三峰は苦笑すると、
「十年以上ぶりに高橋に会ったもんだからさぁ、さっきは一気にアタシの中で時間が遡っちゃったんだけど、普段はこんな喋り方なのよ」
 もう十年もこうだからねえ、と僕を見た。
「……そうか…」
 他に相槌の打ちようがなく、俺は目の前のすっかり冷めてしまったコーヒーをぐびりと飲んだ。三峰もつられたようにコーヒーを飲んでいる。沈黙が二人の上に訪れ、俺は今更のように目の前のオカマを――かつての親友を、まじまじと見つめてしまっていた。
「そんなに見ないでよ」
 三峰は苦笑すると、さて、とわざとらしく腕時計を見て、
「そろそろいく?」と立ち上がった。
「え?」
 いきなりどうしたんだ、と見上げた俺に、三峰はまた苦笑するように笑うと、
「あんまり懐かしかったから声かけちゃったけど……ごめんね」
 と小さな声でいい、伝票を掴んだ。
「なんで『ごめん』なんだ?」
 俺は慌てて彼の手を掴むと、強く下へと引いてまた彼を座らせようとした。
「高橋?」
 戸惑ったような表情を浮かべた彼が、それでも立ち上がったまま俺のことを見下ろしてくる。
「座れよ、まだ全然話してないじゃんか」
「話すって…なにを?」
 言いながらも三峰は、のろのろとまた席についた。
「なにってそりゃ……」
 何を話せばいいんだ――というか、何故俺は彼を引き止めてしまったのだろう。またも沈黙が俺たちの上に訪れる。俺は殆ど強迫観念から何か言おうと必死で頭を巡らせ――言いたいことを思いついた。
「なんだって急にいなくなったんだよ?」
「え?」
 三峰が、わけがわからない、と言ったふうに首を傾げている。
「やっとお前と一緒の大学に行かれると思ってたのに……」
 言いながら俺は、十年以上前のことを今更怒って何になるんだ、と気づいた。――が、言葉は止まらなかった。
「浪人してる間にお前と連絡とれなくなって、どれだけ俺が寂しい思いしたか……同じ大学に入ればまた付き合いが復活するだろうと、必死で勉強してなんとか合格して…知らせようと思ったら、お前は行方不明で、どれだけ俺がショックだったと思ってるんだよ。ひとことくらい、連絡してくれてもよかったんじゃないのか?おふくろさんから『捜さないでください』なんていわれて、俺がどれだけ…っ」
「ごめん!」
 俺の言葉を遮るように三峰は大きな声で詫びると俺の前で深く頭を下げた。
「ごめんじゃねえよ」
 言いながら俺は、拳で自分の目を擦った。酒も飲んでないというのに、それこそさっきの彼の言葉じゃないが、俺の中で一気に時が十数年前に遡ってしまったような気がしていた。彼を捜し捲くったときの気持ちのままに、涙まで込み上げてきてしまっていた俺は、それを気づかれまいとごしごしと眼を擦ると、また
「ごめんじゃねえよ」
 と彼を目の前にそう呟いていた。
 ――きっと彼はあのとき、この世界の扉を開いたんだろう、ということは俺にも簡単に想像がついた。どういう経緯があったのかはわからない。オカマもホモもゲイもいっしょくたに考えてしまう俺なんかには、わからない世界なのだが、とにかく彼は、今までの生活、今までの人生を全て捨てて、今の世界に飛び込んでいったのだろう。彼の母親が「捜さなくていい」と言ったのは、彼がもうかつての彼ではなく、新しい世界で生きていることを知らされたからに違いない。オカマになった――世間体を気にしたのか、それとも友人の俺にショックを与えまいと思ったのか――お袋さんの気持ちはわからないが、『捜さないで下さい』としか告げることのできなかったせつなさは、なんとなくわかる気がした。
「……ごめん」
 項垂れたまま、三峰はもう一度、小さな声で俺に詫びた。窄めた肩がやけに儚く見えた。
「…………いいよ」
 真っ赤なスーツに身を包み、顔には化粧を施し、いわゆるオカマ口調で喋る彼は――やっぱり俺にとっては『三峰』だった。
 彼がかつて切り捨てようと思った世界の中に俺をおきざりにしてたとはいえ、俺にとっての彼はやっぱり、三峰――かつて親友だと思っていた彼でしかなかった。過去を切り捨てた彼が今、再びこうして俺とかかわりをもとうとしてくれた、それだけで俺は充分な気がした。
「どうしても言えなかったの。……東京に出てきてから、ああ、俺は男が好きなんだなあってことに気づいて…」
「もういいって」
 細い彼の声を、俺は乱暴なくらいの口調で遮ると、おそるおそるといったふうに顔を上げた彼に、
「……今日、声かけてくれたから。もういいよ」
 と言って笑おうとした。
「……高橋」
 目の前の三峰の顔がくしゃくしゃと歪む。その顔に僕の顔も、涙に歪んでしまっていた。
「会いたかったよ」
「オカマになっても?」
 ぐすぐすと鼻を啜り上げながら、三峰がポケットからハンカチを取り出し、角をとがらせて涙を拭った。化粧が落ちることを気にしているらしいその姿に、俺は思わず吹き出してしまった。
「オカマだなあ」
「イケズね」
 いわゆる「艶っぽい目」で三峰が俺を睨む真似をする。マスカラが流れて黒く汚れたその顔に、高校時代の短髪の彼の凛々しい顔が重なった。
「イケズって死語だろ?」
「まー、人を年寄り扱いして。タメでしょ、タメ」
「年寄り扱い…ってか、年寄りだろう」
「失礼ねえ!これでもハタチそこそこで通ってるのよ!」
 言葉遣いは違っても、次第に俺たちの間にかつての――高校時代の、会話のリズムが戻ってくる。
「ああ、もうホントに行かなきゃ」
 笑って立ち上がった三峰に、俺はさっき貰った名刺を差し出した。
「なに?」
「連絡先、教えてくれ」
 三峰は一瞬なんともいえない顔をして俺を見たが、やがて無言で名刺を受け取るとまた座って裏面に住所を書き始めた。俺も自分の名刺を出し、裏に自宅の住所と名前を書いた。
「プライベートのケータイも書いといたわ」
 はい、と差し出された名刺を受け取り、はい、と名刺を渡す。
「また会おう」
「ええ」
 二人して固く握手を交わし、俺たちは立ち上がって店を出た。
「それにしても、なんで俺の名前、使うかな」
「ナイショよ、ナイショ」
 笑いあいながら手を振り、俺は彼の赤いスーツを見送った。シナを作るように駆け去ってゆくその後姿を、俺は今度こそ見失うまいとでもするかのように、いつまでもいつまでも、それこそ見えなくなるまで見つめ続けてしまったのだった。
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カンスケ

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高橋も三峰もかわいくって面白かったです!
by カンスケ (2013-04-04 01:07) 

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