SSブログ

クリスマスプレゼント [その他]

ぎりぎりイブに間に合いました。
いつも応援してくださる皆様に、ささやかながらクリスマスプレゼントv


いつかのメリークリスマス


 いつの間にか降り始めた雪が、ちらちらと目の前に落下していく。
 今日はクリスマスイブだから、ホワイトクリスマスってことかな、と空を見上げると、厚い雲から降ってくる雪はまるでゴミのように見えた。
 ムードも何もあったもんじゃない。まあ、ムードと求めるような状況ではないからだけれど、と苦笑しつつ、舞い落ちる雪を見上げ、はあ、と息を吐き出してみる。
 息が白い。雪が降るくらいだから寒いことはわかっているのに、なぜか息が白くなるかを確かめたくなってしまう。
 寒いね。本当に。あ、雪だ。ホワイトクリスマスだね。
 手を繋ぎ、街中を歩く。どうでもいい会話がやたらと楽しい、そんなクリスマスを過ごした頃から、どのくらいの歳月が流れただろう。 
 いや、別に楽しくはなかったか。なんとなくそのとき付き合っていた彼女と、いかにもなレストランで食事をし、高価なアクセサリーをプレゼントしたその代償としてホテルに泊まる。
 宿泊代もコッチ持ちだから別に『代償』ではなかったが、そんなつまらないイブを過ごすよりは今のほうがマシかもな、と苦笑した僕の耳に、
「悪い、富岡。遅くなった」
 という彼の――田宮さんの声が響いた。
「どうした、上なんか見て」
 これから田宮さんと、同じ客先に向かうのだ。クリスマスイブとはいえ平日だから工事現場は動いている。所長はいやがらせよろしく僕らを夕方に呼び出した。きっと夜は接待を強要されるに決まっている。
 普通だったら憂鬱でしかない状況だが、それほど悩ましく思えないのは、田宮さんが一緒だからだった。
「いや、雪降ってきたなと思って」
「ホワイトクリスマスか。ああ、しまった。クリスマスケーキ、用意すればよかったな」
 その辺で買えるかな、と周囲を見渡す田宮さんにとってはもう、『クリスマス』は特別な日ではないようである。
「コンビニででも買いますか。きっと店頭で売ってますよ」
「ああ、そうだな」
 田宮さんが笑顔で頷き、僕たちは現場へと向かって歩き始めた。
「クリスマスイブ、一緒に過ごさないの?」
「過ごさないよ」
「プレゼントは?」
「うるさいな」
 あれこれ話しかけても、田宮さんは言葉どおり、煩そうにするのみである。
「B'zの歌で、プレゼントに椅子を買ったっていうのがあるけど、椅子なんてもらって彼女は嬉しかったんでしょうかねえ」
 懲りずに話しかけると、自分に関する問いではなかったせいか、田宮さんが珍しく答えてくれた。
「欲しがっていた、という歌詞じゃなかったっけ。欲しいものなら嬉しいだろう」
「椅子を欲しがる彼女って、かわってません?」
「……確かに」
 ふふ、と笑った田宮さんの髪に雪が舞い降りた。
「ソファとかならわかるよな。二人で座るように、って感じで。でも持って帰れるくらいの大きさの椅子ってことは、一人用だろ? 欲しいかな」
「リア充っぽいコメント、ありがとうございます」
 嫌みとわかるようにそう言い、髪に乗る雪を払ってやる。
「リア充だからな」
 らしくなく田宮さんがそう言ったのは多分、今日のイブの夜をおそらく共に過ごすことになるであろう僕への牽制だったんじゃないかと思う。
 そんなことされなくても、気持ちはわかってますよ。そう言ってやるのもシャクなので、敢えて嫌がらせよろしく彼が一番嫌がる言葉を口にする。
「僕もリア充ですよ。イブを田宮さんと一緒に過ごせるなんて」
「馬鹿じゃないか」
 いつもの口癖を聞いたところでオチがついた。そう思い、笑った僕の耳に田宮さんがぼそりと呟く、聞こえないような声が響く。
「悪いな。クリスマスイブに」
 実は今日、現場所長に呼び出されたのは、田宮さん担当メーカーの納入遅延が理由だった。しかしそこはお互い様。僕の担当メーカーのチョンボに田宮さんが付き合ってくれたことは一度や二度じゃない。
「別にいいですよ。ほら、僕、リア充じゃないし」
 気にしないで。笑った僕に田宮さんは何か言いかけたが、謝るとまた僕が気を遣うと思ったんだろう。
「馬鹿じゃないか」
 ぼそりと呟き、ふいとそっぽを向いてしまった。 
 ちらちらと降りしきる雪が、田宮さんの髪に、頬に、肩に乗ってはすぐに溶けていく。
 ゴミのようにしか見えなかった雪が今や僕の目には、天使の羽よろしく美しいものに映っていた。
「あ、コンビニだ。ケーキ、買いましょう」
 罪悪感を払拭してやりたくて、敢えて明るい声を出し、コンビニ目指して足を速める。
「しかし所長が欲しがってるのはケーキですかね。それこそ椅子が欲しいとか思ってたりして」
 おちゃらけたことを言い田宮さんを振り返ると、彼はまた、何か言いかけたもののすぐ、
「馬鹿」
 と笑って寄越した。
 何より怖いのは君がいなくなること――不意にその歌詞が頭に浮かぶ。
 彼の笑顔を、悪態を、目の前にしている。これほど僕にとって幸せはイブはないかもしれない。
 我ながら安上がりな男だ。自嘲しながらも僕は、ちらちらと舞い落ちる雪の中、僕のあとについて駆けてくる田宮さんの紅潮した頬を、ホワイトクリスマスとなったイブに独り占めしているという幸福を一人しみじみと噛みしめたのだった。


Merry Christmas!!
nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。