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京極先生との出会い [趣味など]

言うまでもなく作品との出会いです(笑)。

昔すぎてあまりよく覚えていないのですが、もしかしたら「魍魎の匣」の方が先だったかな。
いや、やっぱり姑獲鳥だったかな。

ともあれ。

二次を書こうと思ったきっかけは先生でした。
当時、ネットでは関口君受けが主流で、私が最初にはまったサイト様は榎関でした。

今から思うと超図々しいと思うんですが、通っていたサイトに自作の小説を送りつけたという(汗)
それが「胡蝶」でした。
そのうち「続きを読む」にコピペしておこうかな。

二作目を同じくサイト様に送りつけたあと、コレは自分のサイトを立ち上げたほうがいいのでは、と考えていたところ、大学の友達が「ホームページビルダーつかえば簡単にできるよ」と教えてくれて、作ったのがパロサイトでした。
「未必の恋」うさこちゃん名で作ったサイトです。
ミッフィーが好きだったんですよね。

その後、榎京サイトを立ち上げました。
『月下繚乱』
紫苑名で作成しました。

このサイトで仲良くなった方が、オリジナルのサイトを立ち上げたのを機に、私もオリジナルサイトを立ち上げたらデビューに至った、というのが今から15年ほど前の出来事となります。

作品との出会い。人との出会いはいろんな道を生むのですね。
私は京極先生の二次サイトと出会わなかったら、小説は書いてなかったと思います。

まさか、先生の公式二次小説を書かせていただけるようになるなんて。
Hさんには感謝しかありません。
しかも再びその機会を得られるだなんて。
幸せだなあとしみじみと己の幸福を噛みしめています。

*『胡蝶』掲載しました

『胡蝶』



「暑いな」
 夜何度目かの呟きが木場の口から漏れた。
「オロカモノ、夏は暑いに決まっている」
 榎木津はそう言いながら、持っていた酒を飲み干した。彼の傍らには既に酒豪の2人についていけなくなった関口が「うう」とうめきながら丸まっている。
今日、木場はややこしい事件(ヤマ)がやっと解決したので、ひさびさに一緒に酒でも飲もうと榎木津の事務所を尋ねたのだったが、そこにはもう関口が来ていた。まだ日も落ちないうちから3人で飲み始めたが、案の定関口は途中で寝始めた。関口もやっと原稿が上がったので榎木津を訪ねたと言っていたから疲れもでたのだろうが、かれこれ6~7時間もひたすら飲み続けている木場や榎木津の方が逆におかしいのかもしれない。
それでも榎木津は酔っているのか、うめく関口の頭をこずいたりなぜたりしてかまっているのだが、関口は起きる気配も見せない。
そんな光景を見ながら、木場の気持ちはあの頃へと飛んでいた。
それはすっかり夜中であるのに日中の熱気がいつまでも立ちこめている、この体にまとわりつくような暑さのためだったかもしれない…

木場が初めて関口に出会ったのは戦争も終わりに近づいた、南洋の島でであった。
学徒出陣で関口は木場の上官として赴任してきたのだったが、木場が彼を見た第一印象は、貧相な男だな、というものだった。その小隊の大方のものは同じように思ったようだ。緊張のためかどもりがちな口調も貧相さに拍車をかけていた。こんな男までもが駆り出されるようでは敗戦も間近いのかもしれない、とまで木場は思ったものだ。
が、接して行くうちに少しずつ、彼に対する印象はかわって行った。なぜか、といわれるとはっきり答えられはしなかっただろうが、何と言うか、関口は不思議な空気を持っていた。それは、関口が見かけによらず「生きる」ことに執着していたからかもしれないし、部下みんなの命を自分の命のように考えていることが何かの拍子に強く感じ取れるためだったのかもしれない。別に関口が何をしたというわけではなかったが、小隊は関口を中心によくまとまっていた。時折敵を身近で感じることはあったが、生死の境にいるような緊迫感からは何故か遠いところにいた。敵のことよりも、今日の関口の体調の方を気遣っている自分に気付いて木場は苦笑してしまうときもあった。戦争は日常であったけれども、その日常をふと忘れさせるようなところが関口にあったのかもしれない。隊員全員が同じ気持ちのようで、関口が来る前と来た後では小隊の雰囲気が違った。何となく皆は「生きる」ことを考え始めていた。
そして、それは月の明るい夜。いつものように小さく炊いた火の廻りに丸くなって雑談をしていたときのこと。
あまりの月の美しさに誰かが日本で見た月が懐かしいというようなことを言ったからだと思う。その月を見上げながら関口が語り出した。
「みんな。生きて日本へ帰ろう。…戦争はじきに終わる。こんなことを言うと非国民と思われるかもしれないが、じきに日本は負ける。…そんな戦争に殉じようなんて思っちゃいけない。僕達は…生きて日本へ帰るんだ。」
どうして関口が急にこんなことを口にしたのかはわからない。思っても決して上官としては口に出してはいけない言葉であるにも係らず、関口はいつにもまして熱く語った。なにか彼なりの予感があったのかもしれない。
はじめ誰も何も言わなかった。我に返ったように関口がいつものようにぼそぼそと何かを言いかけたときに、一人の部下が
「自分は隊長に故郷の砂浜をお見せしたいです」
 と立ちあがった。皆が彼を見た。
「君の故郷は…四国だったね」
 関口が問い掛ける。
「はい。…白い砂浜がどこまでも続く、とても美しい海岸です。昼間もそれはきれいですが、こんな月明かりの下では白い砂が月明かりに反射して、ほんとにきれいです」
一瞬木場の目の前にどこまでも続く白い砂浜が過った。波音を遠くで聞いたような気もした。その場にいた全員がそうだったのだろう。しばし皆は遠い自国に思いをはせた。
そのあと、皆は口口に「自分は隊長に故郷のあやめ祭りをみせたいです」「自分は故郷はないけど、『神田川』・・美味いうなぎやにお連れしたいです」「自分は祇園祭にお連れしたい」と、関口をどこに連れて行きたいかを競うように話し出し、そのひとつひとつに関口は頷き返した。皆の目も関口の目も、月明かりの下で輝いていた。それをぼうっと見ていた木場は「木場は?」と誰かに聞かれて我に返った。「木場は日本に帰ったら何がしたい?」最初に口を開いた同僚が木場に訪ねた。「俺は・・隊長と礼二郎と、酒が飲みたい。」ぽろりと木場の口からでた言葉は本心だった。榎木津に関口の学生時代の話しが聞きたかった。
酒かー、と皆ははしゃいだ。俺も俺も仲間に入れてくれと騒ぐ中で、関口が木場の目をまっすぐに見つめて言った言葉が木場の心を掴んだ。「僕もだ。絶対に生きて日本に帰ろう。榎さんと酒を飲もう」
――その興奮も冷めやらぬその日の明け方-木場たちは敵から襲撃を受けたのだった。

全く予期せぬ夜襲だった。いちように隊は乱れた。攻撃を返すことすら出来ず、安全な場所を求めて撤退するしかなかった。
敵からの銃弾は容赦無く彼ら小隊に襲い掛かる。次々と仲間が倒れていく中、責任からしんがり(最後尾)を努めようとする関口を、皆が中へ中へと押し上げた。
少しでも安全なポジションに関口を置こうと、皆が結託した。倒れていく部下に気をとられようとする関口を追いたてるように、皆が関口を守って走った。木場は関口の一番近くにいた。仲間は倒れながら木場に頼む、というような視線を投げた。
敵の追撃を振り切り、ようやく川辺に辿りついたとき-木場と関口は2人だけになっていた。
喉がからからだった。生き延びたのだ、という実感がじわじわとこみ上げてきた。
関口を見やると、彼は呆然と逃げてきた方を見つめて佇んでいた。その目には生気がなかった。うつろな闇が広がっていた。
「死のうなんて思うなよ」
 木場の言葉に関口の肩がびくっと震えた。
「皆が命をかけて守った命だ。ゆめゆめ死のうなんて思うんじゃねぇぞ」
「木場……」
関口は肩越しに一瞬木場を振り返った。がまた視線を戻した。
「……生きて帰らせてやりたかった……みんな……」
 あとは言葉にならなかった。関口の薄い肩が震えていた。
そのまま儚く消え入りそうな彼をこの世に繋ぎとめようと、木場は後ろからその肩を強く抱きしめた。関口の涙が木場の腕にも伝わり落ちた。彼の嗚咽はいつまでも薄闇の中で続いていた。夜が明けきるまで2人はそのまま立ち尽くしていた。…

ふと視線を感じて木場は我に返った。
榎木津がじっと木場を見ていた。木場を、というより木場の頭の少し上あたりをじっと見つめていた。
木場の視線に気付くと榎木津は
「羨ましくなんてないぞ」
 と挑戦的な目つきで言った。満更冗談でもないその口調に木場が何も言えずにいると、榎木津は続けて
「僕だって、同じ戦地にいたら関を守ることが出来た。それこそ命をかけて守ってやったぞ」
 と言いながら傍らの関口の髪を優しい手つきでなぜた。
「……こいつを守ったのは俺だけじゃない」 
 そんな関口に目をやりながら、木場はぼそりと言った。
「あの場にいた皆が……関口には生きて帰って欲しいと、心底願っていた。そして関口も……」
「…え?」
 榎木津の手が止まる。木場は今まで誰にも話したことの無い話しを始めた。

終戦を迎え、木場と関口も戦地から戻ってきた。その後も交流は続き、木場は念願の榎木津と関口を引き合わせて飲むこともできた。中禅寺という変わった男も紹介してもらった。
戦後の混乱の中で月日は流れ、木場は警察に勤めだし、関口は大学していた研究を細々と続けながら物書きになった。榎木津は「探偵」になりビルを建て、中禅寺は古本屋「京極堂」を開いた。「日常」という言葉がようやく板についてきた頃、関口はよく家を空けるようになった。たまに訪ねると留守のことが多い。旅行か?と聞くとあいまいに頷くだけで何も言わなかった。
彼がどこにいっているのか ――暫くして木場の知るところとなった。
久々に京極堂を訪ねると、関口が来ていた。ひとしきり話した後、そうそう、と京極堂が関口に
「君が探している、「あやめ祭り」は茨城だ。5月の終わりからやっているらしい。川下りが出来るそうだよ。」
と言うと、関口は
「ありがとう。よくわかったね」
 と明るい顔をした。
「それにしても君は物書きを生業としているのに、物を知らなすぎる。この間は四国の砂浜で砂が白いのはどこだなどと尋ねるし、もう少し地理の方も勉強した方がいいんじゃないかね」
いつものように始まる説教に関口は首をすくめていたが、それでも時折話しの腰を折ってはこれまたいつものように京極堂の説教に拍車をかけている。
そんな様子を聞きながら木場の思いは遠くあの戦場へと飛んでいた。

京極堂のところを辞した帰り道、肩を並べて歩く関口に、木場は
「…最近留守がちだったのは…」
 と話しかけたが、何と言って言いかわからなくて言葉が途絶えた。関口は暫く何も言わずに足元を見て歩いていたが
「…行ってみたかったんだ。あの日からずっと…」
 と木場に微笑んだ。なんだか泣いているような顔だった。
関口は、あの皆で過ごした最後の夜に、自分を「連れて行きたい」と言われた場所を次々と尋ねていたのだ。木場の記憶が甦った。あの夜の月明かりの下の、皆の光る瞳を。酒に酔ったように浮かされた彼らの声を。
「…ほんとはもっと早くに行きたかった…金がないからね…」とおどける関口の顔が益々悲しげに見える。
「全部、廻ったのか?」
「あやめ祭りがこれからだよ。あと…四国がまだだ。遠いからね」
関口は遠い目をして言った。
「いいところばかりだった。僕なんかに見られるのはもったいないほど、すばらしいところばかりだったんだよ…」
少し前を歩く関口の背中を木場はもう一度抱きしめたい衝動にかられた。夕闇の中に消えてしまいそうなほど、その日の関口は儚く見えた。
あやめ祭りには一緒に行こう、と木場は関口に言った。旦那は忙しいから・・と笑ってやっと関口はいつもの関口に戻った。

「こいつはそういうやつだ。だから皆は命がけで守ろうとしたんだろう」
木場の話が終わっても、榎木津は何も言わなかった。
ただ黙って、関口の髪をなぜていた。

翌朝、「起きろ!関くん!」という大声で関口は目覚めた。飲みすぎで頭が割れるように痛い。木場はいなかった。夕べのうちに帰ったのだろうか。
「なんだよ榎さん・・」ようやっと声を出すと
「起きたな!よし!これから旅行に行くぞ!」
と榎木津は関口を急き立てた。見ればすっかり彼の旅装は整っていた。
「りょ、旅行って榎さん…」
「もう君は着の身着のままでいいっ。どうせ猿なんだから、めかしこんでもおんなじだっ!足りないものは旅先で買えばいい!和寅が今切符を買ってきてくれた!」
はやくはやくとせかされて、訳がわからないうちに汽車に乗り、延々と乗り継いで次に船に乗り…そこからまた汽車にのってほぼ一日かけて着いた先は…

「榎さん……」
 関口はその場に立ち尽くしていた。
「もうすっかり夜になってしまった。やはり遠いな」
言いながら榎木津は横に並んだ。
一日かけて、彼らが辿りついた先は、高知県の桂浜-どこまでも白く輝く砂浜が続く、美しい海岸だった。関口が行きたくても行けなかった遠方の地。
昼間は陽にその白砂が反射してどんなにか眩しいだろうこの砂浜も、今月明かりに照らされて、幻想的な輝きを見せている。きらきらと弱い光で反射する黒い海。全てが夢の中の風景のように美しい…
立ち尽くす関口を、後ろから榎木津は優しく抱きしめた。
「榎さん…」
「大丈夫だ。ここではこれ以上は何もしないぞ」
 関口の肩に顔をうずめながら榎木津はささやいた。
「関がどこかへ行ってしまわないよう、捕まえてるだけだ」
「どこへも行かないよ」
 言いながら関口は見えない海の向こうを見ていた。
この風景。この美しい風景を見せたいと言った部下の顔が浮かんできた。その地その地で、そこへ連れて行きたいと言ってくれた部下の顔が浮かんでは、関口の心を慰めてくれた、その最後の地にやっと辿りついのだ…気がつけば関口は涙を流していた。
泣いていることに榎木津は気付かないふりをしていてくれた。関口は声をたてずに泣き続けた。あの地で死んでいった部下たちの顔が、声が、関口の中で甦る。今皆もこの美しい砂浜を共に見ているのかもしれない…時折漏れる関口の嗚咽は波の音が消してくれた。その波音にかつての部下たちの声が重なる。彼らの魂が確かに今ここに集っていると関口は心から思うことができた。自分達はまた一つになって、この美しい砂浜に立っているのだと…。
ひとしきり泣いたあと、関口はここへと連れてきてくれた榎木津を振り返った。
榎木津は関口から体を離した。その姿に関口は改めて見惚れた。
月明かりに照らされる砂浜に立つ榎木津は本当に美しかった。柔らかい光にきらきらと輝く硝子細工のような美しい瞳。月明かりに反射する白い砂よりもはるかに白く美しい白皙の頬。その端正な顔から関口は目を離すことが出来ない。
「どうした?」
 榎木津が優しく関口に問い掛ける。
「榎さんは…やっぱり神だ」
 関口の口から漏れたその言葉に、榎木津は益々優しく微笑むと
「当然だ」
 と言って関口の頭を抱き寄せた。

しばらくして、関口の新しい小説が雑誌に載った。
蝶が美しい土地を巡る度に白い光を身につけていく。蝶は最後に美しい白砂溢れる砂浜へと辿りつく。そこには天女が佇み、両手を広げて蝶を迎え入れてくれる。蝶は天女の中へ入ると無数の白い光になって、闇の海へと消えてゆくのだが、その波のうねりを良く見ると、一つ一つの白い光が再び蝶の姿となって、黒い海を輝きへとかえてゆく…

木場はこの小説を自室で読みながら、この天女が榎木津ではないかと思った。
「もう一人、気付くやつがいるな」と木場は呟いた。

「なかなか評判がいいそうじゃないか」
店に遊びに来た関口を座敷に通すと京極堂はいつもの仏頂面でそう言った。
「ありがとう」
 照れていっそう口篭もるように礼を言う関口に
「まぁ小説としての出来は決していいとは思わんがね」
 と相変わらずの毒舌をぶつける。
「ひどいなぁ」
「…行けたんだな。桂浜に。」
 ぼそりと言った京極堂の言葉に、関口の顔が輝いた。
「覚えていてくれたんだね」
 その顔に、京極堂は「榎さんと行ったのか?」という言葉を飲みこんで、ただ片方の眉を上げて答えた。
そして、関口の笑顔を記憶に刻み込むべくじっと見つめたのだった。
勿論、いつの日か「彼」が自分の記憶を読むことを予測して…。
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