SSブログ

ホワイトデー [その他]

あ、日付が変わってしまった。

今日がホワイトデーだったということを、会社に行ってからようやく思い出しました……。

というわけで、バレンタインのときと同じく、もう何回目だよっというくらい何度もupしている(すみません・汗)『罪シリーズ』のホワイトデーを今年もup致しますね。
よろしかったらどうぞご覧くださいませ。
(「続きを読む」からご覧になれます。最後、『おまけ』がついてます)


バレンタインのチョコレート、本当にどうもありがとうございました。
改めまして御礼申し上げます。



『W-DAY』



 それは―― 一本の電話からはじまった。
 俺も良平も、偶然今夜は早く帰宅することが出来、久々に普通の時間に――といっても軽く9時は廻っていたが――夕食を共にとっていたとき、良平の携帯電話が鳴ったのだ。
「ちょっとごめんな」
 椅子の背にかけていたスーツの内ポケットから携帯を取り出しながら、良平が俺に手を合わせる真似をする。いいよ、という意味で頷いた俺は、電話が事件を伝えるものじゃないことを祈っていた。このひと月というもの、いつも以上に『激務』続きだった彼が、今日は久々に早い時間に帰ることが出来たのだ。また殺人現場に直行、なんてことになったらそれこそ彼の身体が心配だ、と思いながら聞くともなしに彼の電話に耳を傾けると、
「はい、高梨」
 いつもの『仕事の顔』で――電話では声しかわからないだろうに、良平は携帯に出るとき顔も『仕事の顔』になる。たとえそれまで何をしていようとも――メシを食ってようが、寝転んでテレビを見てようが、そして――例えその「最中」であっても、などと言ってしまう自分もどうかと思うが――電話に出る声にも表情にも緊張が溢れ、酷く凛々しい顔になる。そういう顔になるときの彼には常に危険が付きまとっているように思えて、俺は彼のその『凛々しい』顔を見るたびになんだかいたたまれないような気持ちになってしまうのだった。彼が生命の危険に晒されている職業についているのだと、嫌でも自覚させられてしまうその顔――が、今回の電話は『仕事』ではなかったようで、すぐに良平は
「なんや、どないしたん」
 と途端につまらなそうなだらけた声になったので、俺も安心することが出来たのだった。
『なんややないでしょう』
 が、次の瞬間、電話の向こうの声が女性であることに気付き――しかも関西弁だ――お茶でも入れようかな、と立ち上がりかけた俺は、わざとらしいと思いながらもまた腰を下ろしてしまった。良平の携帯の番号を知っている関西弁の女性――誰だ?と眉を顰めた俺の気配を察したんだろう、良平は、心底嫌そうな顔をしながら携帯のマイクの部分を押さえ
「姉貴や」
 と小さな声で俺に教えてくれた。
『もしもし?なんやの?』
 ああ、そういえばこれはさつきさんの声だ――安堵と同時に、軽いジェラシーを気付かれてしまったことも気恥ずかしく、俺は、ふうん、という顔をしながらその辺の皿を集めると台所へと立った。
「ああ、なんでもない。っちゅうか、なに?なんか用?」
 良平の声を背中に聞きながら食器を流しに置き、またテーブルへと戻ると、
「うん、うん、うん、わかった」
 良平は一時も早く電話を切りたいのがミエミエの態度で応対していて、俺はなんだか笑ってしまった。良平のお姉さんたちは、決して悪い人ではないのだが、なんというか――強烈、なのだ。良平は、今の彼からは考えられないことだが、幼い頃は大人しかったのだという。それも全て、この歳の離れた長姉であるさつきさんと、二つ下の美緒さんの強烈な『喋り』のせいだったらしい。確かにあの二人が話し始めたら誰にも止めることは出来ないよな、と二人に会ったときのことを思い出し、くすりと笑ってしまった俺の耳に、またもさつきさんの声が響いてきた。
『まあな、あんたが忙しいのはわかっとるから、ドタキャンでも全然OKや。十三回忌やし、今回はうちら、ほんまの身内だけやさかいな』
 しかし、携帯の向こうからこれだけ声が鮮明に聞こえるというのは、一体どれだけ大きな声で喋ってるというのだろう。『十三回忌』――誰かの法事が近くにあるということなんだろうか、と、聞くともなしにまた電話を聞いてしまいながら、残りの皿を集めていたそのとき、
『あ、せや、今回身内だけやし、ごろちゃんも連れてきぃひん?』
 いきなり自分の名を出され、俺は思わず皿をテーブルに戻して良平の方を見てしまった。
「ごろちゃん?」良平もそう問い返しながら、俺の方を振り返る。
『うちも久々ごろちゃんに会いたいわ。おかあさんも美緒も会いたがっとるし、な?嫁やったら法事に一緒に来てもええんちゃう?』
「…あのなあ」
 良平は困ったような視線を俺に向けた。
「ええ迷惑ちゃうか?法事なんて出たくて出るやつおらんやろ」
『ええやないの、嫁の務めや、言うたって』
「そんなん、僕から言えんわ」
『ほな、私が言う。ごろちゃん、今いてはるんでしょ?』
「ええって」
 困りきったような良平に俺は歩み寄ると、ちょいちょい、とシャツの袖を引いて注意をひいた。
「なに?」
 まさかここまで電話がまる聞こえとわかってない良平が、電話を抑えながら俺を見る。
「行く」
「え?」
「十三回忌」
「ええ?」
 なんで?と声をあげかけた良平は、少し話した受話器から
『な、今、『行く』言わへんかった?』
 という嬉々としたさつきさんの声に、ああ、とまた心底嫌そうな顔になった。
「ええよ、無理せんで」
 悪いな、と頭を下げる良平に、
「いや、俺も久々、良平の家族に会いたいし」と言う声が聞こえたのか、また受話器の向こうから
『ああ、ほんま、ええ嫁やないの!』
 とさつきさんの声が響き渡った。
「ええ嫁やけど、そんでもなあ。貴重な休みを大阪行きに付き合わされる、ごろちゃんの身にも…」
『法事やのうて、旅行思えばええんちゃうの。ほな、決まりな。ああ、早速美緒に電話せな』
 うきうきした口調でさつきさんはそういうと、まるで電話を切り急ぐかのように
『ほな。またな。あんたもごろちゃんも、身体気ぃつけてな』と早口でまくしたてた。
「ああ、姉貴たちもな。お袋にもよろしく」
 ほっとしたような顔で良平もそういうと、そのまま電話を切ろうとしたのだったが、
『しかしさすがは良平やね。抑えるとこ抑えとるわ。こんな大切な日に電話してもて…かんにんな』
 ほな、というさつきさんに、良平は多分意味がわからなかったんだろう、
「大切な日?」
 と問い返した。途端に電話の向こうのさつきさんの口調が変わった。
『なに?あんた、まさか忘れとるんちゃうの?』
 呆れ返ったような怒声には、俺まで首を竦めてしまう。『大切な日』ってなんだよ、と俺は今日の日付を思い出し――
「あ」
 同じく思い出したらしい良平と思わず顔を見合わせてしまっていた。
『ホワイトデーやないの。ああ。男同士はあんましそんなん、関係ないんかな?』
 そう――今日は確かに、ホワイトデーだった。課の女の子から貰った義理チョコのお礼も後輩に任せてしまったためすっかり失念していた俺だったのだが、良平も同じようなものだったのだろう。確かに男同士にはバレンタインもホワイトデーも関係ないよな、と苦笑しかけた俺だったが、
「関係あるわ」
 ああ、と大きく溜息をついた良平に、え、と驚きの眼差しを向けてしまった。
『なんやの。やっぱり忘れてたんか』
「……ああ、しもた。ほんま、どないしよ」
 良平が受話器を握りながら、俺に頭を下げてくる。
「へ?」
 なにが、と聞き返そうとした俺の脳裏に、ひと月前の――バレンタインのことが甦った。
「…ああ」
 そう――あのとき俺は、何を思ったか世の女の子同様、良平にチョコを買ってきたのだ。が、良平に世の男性たちが為すべき『おかえし』を求めたことなどなかった俺は、慌てて、いいって、と小さな声で言いながら首を横に激しく振った。
『あかんなあ。ちゃんとお返しせな。ああ、せや、お返しゆうたかて、キャンディとかマシュマロとか、あげたらあかんで?』
 電話を切る気配がすっかりなくなったさつきさんは、良平が弱ってるのをいいことにまた嬉々として喋りはじめた。
「なんで?」
 良平は『忘れていた』ことへのショックが大きかったからか、大人しく相槌を打っている。俺も、何故定番の『キャンディやマシュマロ』――まあ、いまどきマシュマロは定番じゃない気もするが――じゃいけないんだろう、とさつきさんの答えに思わず注目してしまった。
『そんなん、当たり前やないの。まだお勤めしとったころ、義理チョコ配りまくったもんやけど、お返しにアメ貰ったときほどがっかりしたことはないで?』
「がっかりって…もともとチョコの礼やないか」
 そうそう、その通り、と俺も思わず頷いてしまう。
『あほやなあ。義理チョコのお礼かて、キャンディは一番人気ないんよ?知らんかったんか?』
「へえ」
 そういうものなのか、と良平と一緒に俺が納得してしまったのは、今日お返しを任せた後輩が、女の子たちにハンカチとポーチかなんかのセットを配っていたのを見たからだ。あいつもそれがわかっていたのか、と、自分なら迷いもせずに市販のキャンディを買っただろう俺は、なるほど、と頷いてしまったのだったが、
『それにあんた、ごろちゃんやったら本命やないの。本命にまさかキャンディで誤魔化そう思うとったんやないやろうね』
 脅すような口調でさつきさんが言った言葉には、いや、それは違うぞ、と慌てて首をぶんぶんと横に振ってしまった。
「本命…せやね」
 良平は俺の様子には全く気づかず、眉間の皺を深めている。
『なんや心のこもったおかえし、ちゃんと考えなあかんよ』
 すっかりさつきさんのペースにまきこまれてしまったらしい良平は、うん、と大人しく頷くと、
「心のこもったお返し、なあ」
 何にしよ、とうーんと唸り始めてしまった。いや、だから、もともと『本命』の俺がチョコしか上げてないんだって――昔、確かに『本命』の女の子はチョコ以外に何かプレゼントをくれたし、俺もホワイトデーにはそれなりのものを返したものだが、俺と良平は男同士じゃないか、と言ってやりたいのに、良平の電話は終わる気配がない。
「何が喜んでもらえるかな」
 逆に質問まではじめた良平の袖を、俺は思わずちょいちょい、と引いたのだったが、良平は相手にしてくれなかった。
『せやねえ。まあ、一番喜ばれるんは、指輪やない?』
「指輪か!」
 いや、だからそれは女の子相手の話で――という俺の言葉は、電話の向こうのさつきさんの声にかき消されていってしまった。
『そうそう、やっぱり『ダイヤモンドは永遠の輝き』ちゃう?』
「ダイヤな」
『あとはほら、カルティエのラブリングでおそろいっちゅうのも捨て難いな』
「それもええな」
『いっそのことハリーウィンストンくらい思い切ったもん買うてもええかもな』
「そうか…あとは?」
『せやね、定番やけどティファニーとかな。ああ、渡し方も演出せなあかんよ。ほら、電車で眠りこんどったらいつのまにか左手の薬指にっちゅう…』
「映画館の宣伝かいな」
『そう、それそれ』
「普通気付くはなあ」
 漫才のような二人のやりとりは延々と続き、俺はもうどうでもいいや、と投げやりな気持ちで中断した後片付けに戻ることにした。残りの皿を流しに運び、戻ってきたときもまだ良平は電話を続けていたのだったが、
「ハリーが銀座、ティファニーも銀座か。うんうん、ハリーは要予約、な」などと手帳にメモまで取っている始末で、このあとどういって彼に指輪を諦めさせるかに頭を悩ますだろう自分を思い、俺は大きく溜息をついてしまったのだった。



「ああ、すっかり長電話してもうたわ」
 充電が危うくなってようやく電話を切った良平が、にっこりと俺に笑いかけてきた。
「あのさ」
 先手必勝、とばかりに俺は思い切り真面目な顔で、良平の前に立ち
「お返しなんていらないから」
 ときっぱりと言ったのだったが、
「なんで?」
 と心底不思議そうな声で問い返され、う、と言葉に詰まってしまった。
「だって、俺だってチョコしかあげなかったし」
「ああ、ほんまうれしかったわ。ありがとな」
 にこにこわらいながら良平が俺の背に両手を回してくる。
「……」
 改めてそう言われてしまうと、照れくさくなってしまう。無言で口を尖らせた俺を抱き寄せながら良平は
「ん?」
 と俺の顔を覗き込むようにして額を合わせてきた。
「……良平が喜んでくれたのなら、それで俺は満足だから」
 我ながらぶっきらぼうな口調でそういうと、良平は
「僕もごろちゃんを喜ばせたいわ」
 と俺の背を抱く手に力をこめた。
「………いつも喜んでるよ」
 近すぎて焦点の合わない良平の眼が、なんで、というように見開かれる。
「こうしているだけで……良平が傍にいるだけで十分嬉しいから」
「ごろちゃん」
 感極まったような声が良平の口から漏れたかと思うと、いきなり俺はその場で抱き上げられてしまった。
「わ」
 なんだ、と良平の首にしがみついた俺の背を良平はぎゅっと抱きなおす。
「ほんま……ハリーウィンストンもカルティエも、ごろちゃんの言葉の前じゃ輝きを失うっちゅうもんや」
「……ベタ」
 よく真顔で言えるな、と呆れた俺に、良平は
「ベタで結構。ああ、ほんま、今日はええ日やわ」
 とにこにこ笑いながらそのままベッドへと直行した。
「ほんま、なんも用意してへんからな。誠心誠意、今日はごろちゃんを悦ばせるよう努力するわ」
「…いらんっちゅーの」
 ベタな上にエロおやじ入ってるんですけど、と呆れた俺の視線をものともせず、良平はにっこりと邪気のない微笑を浮かべると、
「そんなこと言わんと…受け取ってや」
 などとさらにベタな台詞を言いつつ、ベッドの上に下ろした俺に圧し掛かってきながら唇を落としてきたのだった。



 濃厚すぎる『お返し』のおかげで、翌日俺は殆ど腰が立たなかったが、それでも指輪がボツになったことにほっとしていた。
 まさかその日の午後、今度は美緒さんから
「聞いたで?あんた、いよいよ指輪買うそうやないの」とまた寝た子を起こすような電話があることなんてことは予測できるわけもなく、来年からは絶対にバレンタインには何もすまい、と気だるい身体をベッドに横たえながら、俺は固く心に誓ったのだった。




*おまけ 
濃厚な『お返し』


「ん…っ」
 くちづけを交わしながら、良平が器用な手つきで俺のシャツのボタンを外し、背を抱きあげながら両手の袖を抜かせてくれる。いつものように、Tシャツを自分で脱ごうと手をっけると、その手を押さえ込むような素振りをされ、なに、と唇を合わせたまま俺は薄く眼を開いて彼を見上げた。
「今日は『お返し』やからね。なんもせんでええよ」
 にこ、と笑った良平はそういいながら俺からTシャツを剥ぎ取ってゆく。
「いいよ」
 何もしなくていいって――と、戸惑う俺から、良平はスラックスやトランクス、靴下をも脱がせると、自分は着衣のまま、唇を俺の首筋へと下ろしてきた。
「…んっ」
 痕を残すようにきつく吸いながら、彼の熱い唇が次第に下へと降りてゆく。両胸の突起をそれぞれに摘まれ、強いくらいに引っ張られて、俺は思わず小さく声を漏らしてしまった。良平の唇が片方の胸の突起を捉える。片方を手で捏ね繰りまわされるように愛撫されながら、もう片方に軽く歯を立てられると、俺の身体は自分でも驚くくらいにびくん、と大きく震えた。空いた片手はゆっくりと腹を伝って下へと降りてきて、勃ちかけた俺をやんわりと握ってくる。竿を握られたまま先端を親指と人差し指の腹で擦られると、胸への刺激と相俟って急速に昂まっていくのを抑えることが出来なくなった。
「や…っ」
 その手を、唇を逃れようと身体を捩ろうとしても、体重で押さえ込まれてしまって身動きすることも適わない。俺の声を待っていたかのように、彼がまたいっそう強い力で、俺の胸の突起を抓り、俺はまたも彼の身体の下で、大きく背を仰け反らせた。
「…これがええの?」
 ふと良平が俺の胸から顔を上げたかと思うと、俺を真っ直ぐに見上げたまま、胸の突起を再び抓った。
「やっ…」
 本気で抓っているわけではない、痛痒いようなその感触に、また俺の身体はびくんと震える。何より、良平の視線が――そして、着衣に少しも乱れのないその様が、尚更に昂まりを煽っていることに気付いた俺が、思わず目を閉じてしまうと
「これは?」
 くす、と笑いながら良平が、今度はもう片方の胸をきつく吸い上げながら軽く歯を立ててきた。
「やっ……」
「こんなんは?」
 指で摘んで引っ張り上げる。
「こっちは?」
 爪を立てて逆に胸へとめり込ませようとする。
「これは?」
 今度は両胸を捻り上げる。
「やっ……あっ………はぁっ……」
 囁かれる言葉と、絶え間なく与えられる刺激に、耐えられず声を漏らした俺に、
「ごろちゃんは胸を弄られるのが好きなんやね」
 身体をずり上げてきた良平が、俺の耳元でそんなことを囁きながら、また両胸の突起をぎゅっと捻り上げた。
「やっ…」
「綺麗な色や。ほら、だんだんピンク色になってきたで」
 見てみ、と囁かれた声に誘われ、薄く眼を開いた俺の眼に飛び込んできたのは、良平の指が摘んでいる、本当に紅く色づいていたそれ、だった。
「やっ……」
 羞恥が全身を駆け抜ける。が、同時に彼が摘んでみせたその姿に、己がさらに昂まってしまっているのもまた事実だった。
「もう…食べてしまいたいわ」
 そのままずりずりと身体を下へと下ろしてきた良平が、その言葉どおりに胸の突起を音を立ててしゃぶりはじめる。
「やっ……はぁっ……やっ……」
 視覚と聴覚を捕らえた刺激が俺の昂ぶりに拍車をかけた。さらに俺を追い詰めるように、良平が空いた片手で俺を握ると、激しく扱き上げてくる。
「あっ……やぁっ……あっ……」
 達してしまう、と腰が引けるのも構わず扱かれ、俺はとうとう耐え切れずに彼の手の中に己の精を吐き出してしまった。
「…はぁ…っ……んっ……んふっ……」
 また身体をずりあがらせてきた良平が、唇で俺の唇を塞ぐ。あがる息を閉じ込めるようなそのキスに、息苦しさから顔を背けようとするのを彼は許してくれず、執拗に俺と舌を絡め、俺の吐く息、漏らす声、全てを塞ごうとするかのように唇を合わせ続けた。
「んっ……ふっ……」
 苦しさが俺から思考を奪ってゆく。酸素を求め、彼を押し退けようと押した胸がまだ着衣のままだったことに俺は今更のように気付くと、あ、と思わず眼を見開いてしまった。
「…なに?」
 ようやく唇を開放してくれた良平が、やはり荒い息の下、俺を見下ろしてくる。
「………」
 暫くはあはあと息を整えたあと、俺はそろそろと彼の胸から下肢へと両手を下ろし――やっぱり、と大きく溜息をついた。
「なに?」
 小首をかしげるように尋ねて来る良平に
「ごめん……汚した」
 と、俺は自分の精液を飛ばした彼のスラックスの前を撫でた。
「ああ」
 なんや、と目の前の良平の顔が笑いにほころぶ。
「すぐおとそう」
「ええて」
 起き上がろうとする俺を良平は肩を抑えて制すると、再び俺の首筋へと顔を埋めてきた。
「良平…」
 まだ服を脱ごうとしない彼のシャツの背を掴んで、顔をあげさせる。
「……なに?」
「……」
 脱げ、ということも出来ず、見上げる瞳を見返していた俺に、良平はくすりと笑うと、
「なんでも言うこと聞いたるよ」
 と、再び俺の首筋へと唇を落とした。
「……」
 それは言わなきゃ聞かない、ということだろうか――さっきは『おかえし』といってなかったか、と、『おかえし』にもかかわらず俺に恥ずかしいことを言わせようとする良平の真意に気づいた俺は、それならこっちにも考えが、と再び彼のシャツを掴むと
「良平」と彼に顔を上げさせた。
「なに?」再び邪気のない眼を装った彼がにっこり笑って俺を見上げてくる。
「なんでも言うこと聞いてくれるのか?」
「勿論」
 先ほどまで弄られ続けていたおかげで、すっかり紅く勃ちあがっていた胸の突起を、つん、と指先でつつかれ、俺は一瞬う、と息をのんだ。
「なに?はよ言うてや」
 またつん、とそこを突きながら、良平が『邪気』のあるにやにや笑いを浮かべている。
「じゃあ…っ」
 その手を払いのけるようにして、俺は無理矢理半身を起こすと、
「今すぐ、スラックスの染み抜きしたいんだけど」
 と、にやりと笑って彼を見た。
「…え?」
 つられて半身を起こした良平が、唖然としたように俺を見返している。
「なんでも言うこと、聞くんだよな」
「そんな殺生な…」
 途端に情けない顔になった良平に、思わず俺は吹き出してしまう。
「ごろちゃん、ほんま、いけずやわ」
「ほら、早く脱いで」
 ぶつぶつ言いながら服を脱ぎ始めた良平の横で、逆に脱がされたシャツを身に着けた俺は、彼が口を尖らせながら差し出したスラックスを手に風呂場へと向かった。
「染み抜きなんて明日でええやんか」
「やだよ。俺の……じゃないか」
「ごろちゃんのならついたままでもかまへんのになあ」
「馬鹿じゃないか」
 本当に何を考えているんだか――溜息をつきながら濡れタオルでスラックスを拭いはじめた俺の背に
「はよ続きしよ。な、ごろちゃーん」
 という良平の甘え声が響いてくる。
「…………」
 明日は休みだし、まあいいか――そう思いながらも、俺はまるで彼をじらすかのようにゆっくりゆっくり、疼く胸の突起を敢えて無視しつつ、スラックスの染み抜きを続けたのだった。


 この「焦らし」があとから自分の首を絞めることになろうとは――いい加減俺も『学習』すべきなのかもしれない、という後悔は、翌朝ほとんど腰が立たない状態で彼の腕の中で目覚めてからのことになる。


nice!(0) 

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。